近年、マダニが媒介する感染症として、SFTS(重症熱性血小板減少症候群、以下「SFTS」といいます)が注目されています。
SFTSはヒトだけでなく、犬や猫にも感染する病気で、ペットと暮らす私たちにとって決して無関係ではありません。
とくに屋外に出る機会のあるペットや、動物に接する仕事をしている方、これから動物と接する仕事に就くことを志している方は、基本的な知識を知っておくことが大切です。
この記事では、SFTSの特徴や感染経路、実際に起きた事例、そして日常でできる予防対策について、わかりやすく解説していきます。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは
ウイルスの概要
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、SFTSウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染する、ダニ媒介感染症です。
本来は「マダニ→ヒト」という経路で感染しますが、「マダニ→犬→ヒト」「マダニ→猫→ヒト」のように、動物を介して感染するケースも確認されています。
ただ、このウイルスはすべてのマダニが保有しているわけではありません。

咬まれたら必ず発症するというわけではない、ということですね。
発見の経緯(2011年 中国での報告→日本での確認)
2011年:中国で新種のウイルスとして発見
2012年秋:日本国内で、海外渡航歴のないヒトが日本固有のSFTSウイルスに罹患し、その後死亡
2013年1月:国内初の症例として確認・報告
その後も症例報告が続き、2017年7月26日までに280名(生存者222名、死亡者58名)の感染が報告されています。
潜伏期間とおもな症状
潜伏期間は、マダニに直接咬まれた場合で6日〜2週間程度とされています。
一方、感染した動物の体液などを介して感染した場合は、より短くなる可能性があります。
ヒトの場合の初期症状(発熱、嘔吐、意識障害など)
発熱、食欲低下、全身の倦怠感、嘔吐、下痢、腹痛などがみられます。
そのほか、頭痛や筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節の腫れ、皮下出血や下血などの出血症状を起こすこともあります。
犬の場合の初期症状(元気消失、食欲不振、発熱など)
犬の場合は、一般的に無症状(不顕性感染)で経過することが多いとされています。
ただし、まれに食欲不振や発熱、白血球減少症などの症状が認められることがあります。
致命率
日本におけるヒトのSFTSの致命率は約27%とされています。これは、劇症型レンサ球菌感染症(いわゆる「人食いバクテリア」)と同程度の水準です。
27%という数字は、罹患した100人のうち約27人が亡くなっていることを意味し、決して低い値とはいえません。
一方、動物における致死率はヒトよりも高い傾向があり、犬では40%以上、猫では60%前後と報告されています。
そのため、ペットと暮らす家庭では、より一層の注意が必要です。

現在、日本での致命率は27%ですが、中国では一般的に10%ほどと報告されています。望ましいことではありませんが、もしも今後感染者数が増え、軽症例も含めたデータが蓄積されていくならば、日本での致命率も変動する可能性があります。
ワクチンや治療方法の現状
現在のところ、SFTSに対して承認されたワクチンはありません。
治療は、症状に応じて対応する対症療法が中心となります。
対症療法とは、発症している症状を和らげることを目的とした治療です。たとえば、発熱があれば解熱剤が、下痢があれば止瀉薬が投与されます。

SFTSの感染経路
SFTSは、おもにマダニに咬まれることで感染しますが、すでに感染した動物の体液などに触れることで感染するケースもあります。
- マダニ → ヒト
- 感染した動物(犬、猫、ヒト)の体液 → ヒト
SFTSに感染した具体的な事例
SFTSへの感染事例の中から、いくつかをピックアップして紹介します。
ご一読いただくとわかるように、SFTSにはさまざまな感染経路があることが分かります。
飼い犬からヒトに感染したケース→のちに回復
2017年10月、徳島県にて、飼い犬と接触した40代の男性がSFTSに感染したと厚生労働省から発表がありました。
男性も飼い犬も、その後回復できたとのこと。
本件は、犬からヒトへの感染が明らかになった初めての事例でした。
野良猫からヒトに感染したケース→のちに死亡
同じく2017年7月には、西日本在住の50代女性がSFTSを発症、10日後に死亡しました。
女性にマダニに咬まれた形跡はありませんでした。
発症の数日前、衰弱した野良猫を動物病院に連れて行こうとした際に手を咬まれており、そこから感染した可能性が高いと考えられています。
感染したヒトからヒトに感染したケース→のちに回復
2023年4月には、日本ではじめてヒトからヒトへの感染が確認されました。
感染したのは20代の医師。SFTSと確定診断された90代男性(のちに死亡)の治療にあたっていました。
医師にペット飼育歴はなく、マダニに噛まれるような活動もしていなかったこと、また、検査の結果、同一のウイルスと考えられたことから、罹患した90代男性から医師に感染したものと診断されました。
マダニから飼い猫が感染したケース→のちに死亡
2025年5月、茨城県内の飼い猫にマダニがついているのを保護者が発見。
ダニを除去したものの、高熱、嘔吐、食欲低下、黄疸などの症状を発症。保護者による看病を受けていましたが、残念ながら数日後に死亡しました。
感染した猫からヒトに感染したケース→のちに死亡
2025年6月、SFTSに感染した猫の治療にあたっていた三重県の獣医師が死亡したと報じられました。
亡くなったときの症状などからSFTSに感染していた疑いがありますが、獣医師にマダニに噛まれた跡はなく、治療対象となっていた猫からの感染が強く疑われている、とのことでした。
マダニからヒトに感染したケース→のちに回復
2025年7月、神奈川県西部在住の60代女性がSFTSに感染。一時、重症だったものの、のちに快方へ向かいました。
回復した後の聞き取りで、県内で畑仕事や草むしりに従事していたことが判明しました。
本件は、関東地方での感染が確認された初めての事例になります。
SFTSから自分やペットを守るためにできること
マダニ予防の基本対策(草むら対策、忌避剤など)
マダニの多くは、草がよく茂っている場所に生息しています。
林や草むら、河川敷などに出かける際には、肌の露出をできるだけ避けた服装を心がけましょう。
その他にも、
- マダニ対策用医薬品を使用する
- 草むらから出たら洋服や靴にコロコロをかける
- 帰宅後、すぐにお風呂に入る
- 見逃した場合にそなえて、自宅にダニ対策グッズを用意しておく
などの対策も意識しておくと安心です。

ダニは黒っぽいので、白系の服や靴を着用すると目立つのでおススメです。
アウトドア遊びや草むしりなど茂みで作業をする場合には、定期的に服や靴を確認し、コロコロ(粘着カーペットクリーナー)を使用して咬まれる前に取り除くように注意してくださいね。
ペットの定期的なダニ駆除・予防薬の使用
ペットのダニ予防も重要です。
ヒトとちがって全身を毛に覆われているので、自分のこと以上に気をつけていたとしても、毛の奥深くに隠れたダニを見つけられない可能性は十分に考えられます。
茂みには近づかせないほうが賢明ですが、お散歩好きなペットではなかなかそうも言っていられないですよね。そうした場合には、フロントラインなどの動物用医薬品によるダニ駆除・予防を必ず行うようにしましょう。
また、上記のとおり、猫がSFTSに感染した場合の致死率は、ヒトの倍近く高いとされています。
本来、猫の飼育は完全室内飼いが望まれていますが、「もともと野良の子で、外に出さないとストレスで体調をくずしてしまう」などの理由から、外に出さざるをえない場合もあるかもしれません。
大切なわが子を守るため、そして飼い主自身の安全のためにも、そのような場合には、必ずダニの駆除・予防を行うようにしましょう。

ダニに咬まれた愛犬が感染→保護者も感染は十分にあり得ますし、多頭飼育の場合では感染したペット→ほかのペットへの感染という事態も考えられます。
何事もそうですが、感染後の治療より、予防対策のほうが圧倒的にお金も労力もかかりません。家族全員の健康のためにも、ぜひ、徹底的な予防対策をお願いします。

動物にむやみに触れない
SFTSはマダニからの感染だけではなく、感染した動物の体液などからも感染します。
とくにイノシシ、鹿、アライグマなどの野生動物にSFTSウイルスの抗体を持っていることが確認されています。
では野生動物だけを避ければよいかというと、そうとも言い切れません。
なぜなら、ペットとして飼われている動物でも、保護者が気づかないうちに感染している可能性があるからです。
また、ヒトでもその症状は発熱、食欲不振など風邪のような症状とも似ており、自身がSFTSに感染していることに気づいていない場合もあるかもしれません。
症状が出たときの初期対応と受診のすすめ
SFTSは、早期に気づき、適切な対応をとることがとても重要です。
発熱や食欲不振、強いだるさ、下痢や嘔吐など、普段の体調不良と見分けがつきにくい症状から始まることも少なくありません。
もし、
といった状況で、体調の変化を感じた場合には、自己判断せず、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。その際には、「マダニに咬まれた可能性があること」や「動物との接触があったこと」を医師に伝えることが大切です。
ペットに元気がない、発熱している、食欲が落ちているなど、いつもと違う様子が見られた場合も、早めに動物病院へ相談してください。
「念のため」の受診が、結果的に大切な命を守ることにつながります。
正しい知識と予防で、命を守ろう
SFTSは、決して珍しい病気ではなくなりつつあります。しかし一方で、正しい知識と日常的な予防によって、感染リスクを下げることができる感染症でもあります。
必要以上に怖がる必要はありません。
「知らなかった」「気づかなかった」で後悔しないためにも、マダニ対策、ペットの予防、体調の変化への気づき、などなど。できることを、できる範囲で続けていくことが大切です。
大切なペットは、私たちの行動によって守ることができます。
そして、その行動は、飼い主自身の命を守ることにもつながっています。
正しい知識を味方につけて、これからも安心して、ペットとの毎日を過ごしていきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました☻
・国立健康機器管理研究機構 感染症情報提供サイト
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/45/530/article/110/index.html
・厚生労働省
・獣医療関係者の SFTS 発症動物対策について(2025年バージョン)https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/vet/animal-borne-2_2025-06-10.pdf
・日本経済新聞HP(2017/10/10 18:13)
・日本経済新聞HP(2017/7/24 18:11)




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