はじめに
犬のワクチンというと、『毎年打つもの』というイメージを持っている方も多いかもしれません。
一方で最近は、「成犬になってからも毎年必要なの?」「3年に1回でよいワクチンもあるって本当?」と迷う飼い主さんも増えているようです。
実際、犬のワクチンにはコアワクチンとノンコアワクチンがあり、すべてを一律に毎年接種するのではなく、それぞれの性質や感染リスクに応じて考えるという考え方が、国際的なガイドラインでも示されています。
本記事では、成犬のワクチン接種の間隔について、WSAVA(世界小動物獣医師会)のガイドラインを参考にしながら、コアワクチンとノンコアワクチンの違い、抗体検査という選択肢、そして海外での考え方まで、できるだけわかりやすく整理していきます。
「今年のワクチン接種をどう考えたらよいのだろう」と迷っている飼い主さんにとって、判断材料のひとつになれば幸いです。
なお、子犬のワクチンスケジュールは成犬とは大きく異なるため、本記事では主に成犬のケースを中心にご紹介します。
WSAVAって何?
WSAVAとは、World Small Animal Veterinary Association の略で、日本語では世界小動物獣医師会と訳されます。
小動物診療に関わる獣医療の発展を目的とした国際的な団体で、世界各国の獣医師会が加盟しています。
WSAVAでは2004年、犬と猫のワクチン接種について、世界的に参考にできるガイドラインを作成しようという目的で、ワクチネーションガイドライングループ(Vaccination Guidelines Group:VGG) が設立されました。
その後、VGGは2007年に最初のガイドラインを公表し、2010年、2016年に改訂版を発表しています。さらに、WSAVAでは2024年版のガイドラインも公開されています。
今回のテーマに関しては、このガイドライン全体を通して示されている『ワクチンは必要性を考えながら、過不足なく接種することが大切である』という考え方が重要だと感じました。
ワクチンについて
ワクチンとは
ワクチンとは、感染症の原因となるウイルスや細菌に対する免疫をつけるための製剤です。
病原体そのもの、あるいはその一部を利用して体に免疫反応を起こし、あらかじめ抗体や免疫記憶を作っておくことで、実際に感染したときに重症化を防いだり、発症しにくくしたりすることを目的としています。
ワクチンは感染症予防に大きな役割を果たしますが、絶対に無害というわけではありません。
まれではあっても副反応が起こる可能性があるため、接種は『毎年だから何となく受ける』のではなく、その子にとって必要かどうかを考えながら行うことが大切です。
WSAVAのガイドラインでも、ワクチン接種は有益である一方で、不要な追加接種は避けるべきである、という考え方が示されています。

ワクチンの種類
犬のワクチンは、大きく分けてコアワクチンとノンコアワクチンの2つに分類されます。
コアワクチン
コアワクチンは、重症化しやすく、世界的に重要と考えられている感染症に対するワクチンです。犬では、一般に次の3つがコアワクチンとされています。
- 犬ジステンパーウイルス(CDV)
- 犬アデノウイルス(CAV)
- 犬パルボウイルス2型(CPV-2)
これらは、住んでいる地域や飼育環境にかかわらず、すべての犬にとって重要性が高いワクチンとされています。
なお、日本では狂犬病ワクチンについては別の扱いになります。
狂犬病予防法に基づき、飼い犬への接種は年1回が義務づけられています。これはWSAVAのコア/ノンコア分類とは別に、日本の法律に基づいて考える必要があります。
犬アデノウイルスには1型と2型があり、1型は犬伝染性肝炎、2型は呼吸器症状に関わる犬アデノウイルス感染症と関連します。
現在は、犬アデノウイルス2型(CAV-2)を用いたワクチンで、1型(CAV-1)に対する予防効果も期待できるとされており、CAV-1ワクチンは一般的には推奨されていません。
このため、日本で流通している混合ワクチンでも、成分としてはCAV-2が採用されていることがあります。
ノンコアワクチン
一方のノンコアワクチンは、すべての犬に一律で必要とされるものではなく、生活環境や地域の流行状況、暮らし方などに応じて必要性を判断するワクチンです。WSAVAも、ノンコアワクチンは個々の犬の暮らし方や地域事情をふまえて選ぶべきだとしています。
WSAVAの資料によると、犬のノンコアワクチンとして、たとえば次のようなものが挙げられています。
- ボルデテラ・ブロンキセプ
- 犬パラインフルエンザウイルス(CPiV)
- ボレリア(ライム病)
- レプトスピラ※地域によっては、すべての犬に強く勧められるほど重要とされる場合もあります。WSAVAの2024年版では、犬レプトスピラ症が流行している地域では、レプトスピラワクチンをその地域の『コア』とみなす考え方も示されています。
日本で一般の飼い主さんが目にしやすいものとしては、犬パラインフルエンザウイルスやレプトスピラを含む混合ワクチンがよく知られています。
ただし、どのワクチンが必要かは、❶ほかの犬と接する機会が多い、❷特定の感染症に触れる可能性がある、❸水辺に行くことが多い、などの条件によってか変わります。
犬コロナウイルスワクチンの扱いについて
ワクチンの中には、犬コロナウイルスの成分を含むものもあります。
ただしWSAVAでは、犬の腸管コロナウイルスワクチンについては推奨していません。 2023年のWSAVA必須医薬品リストでも、WSAVAのワクチネーションガイドラインは canine enteric coronavirus vaccine の使用を推奨しない と明記されています。
そのため、この成分については、『接種が強く勧められているワクチンではない』と理解しておくとよいでしょう。
ワクチンの免疫持続期間
コアワクチンの免疫持続期間
➡長く続くことが多く、最長では終生に及ぶこともある
コアワクチンは、ノンコアワクチンよりも免疫が長く続くことが知られています。
WSAVAでも、コアワクチンの免疫持続期間は何年にも及び、最長では終生持続することもあると説明しています。
このため、WSAVAは子犬期の初回接種と、その後の追加接種が適切に行われた成犬に対して、コアワクチンを3年より短い間隔で繰り返し接種することは勧めていません。
2022年のAAHAガイドラインでも、成犬のCDV・CPV・CAVでは、初年度ブースター(子犬期の最終接種から約1年後の追加接種)後は3年ごとが推奨され、年1回の追加接種は不要とされています。
整理すると、次のようになります。
ノンコアワクチンの免疫持続期間
➡一般的には約1年
一方で、ノンコアワクチンの免疫持続期間は、一般的にコアワクチンほど長くありません。
WSAVAの2024年版でも、多くのノンコアワクチンの免疫持続期間は約1年とされています。
たとえばレプトスピラワクチンでは、抗体の推移と実際の防御期間が完全に一致しないことがあり、抗体価が下がっていても一定期間は予防効果が続くことがあります。WSAVAの2024年版でも、レプトスピラでは防御は血清反応陽性の期間より長く続くと説明されています。
ただし、だからといって長期間ずっと安心というわけではなく、接種が必要な生活環境にある犬では、基本的に年1回の追加接種が検討されます。
整理すると、次のようになります。
【結論】ノンコアワクチンが必要な場合は、毎年の混合ワクチン接種になることが多い
ここまで見てきたように、WSAVAでは成犬のコアワクチンは、3年より短い間隔で追加接種しないことが基本的な考え方とされています。
一方で、ノンコアワクチンは生活環境や地域の感染状況によって、年1回の接種が勧められることがあります。
ただ、日本で実際に接種される犬用ワクチンは、コアワクチンとノンコアワクチンが組み合わされた混合ワクチンであることが多く、ノンコアワクチンが必要な犬では、結果としてコアワクチンも一緒に毎年接種する形になりやすいのが現状です。
このあたりは、ガイドライン上の理想と、実際に選べる製剤の事情に差がある部分といえるかもしれません。
そのため、成犬のワクチン接種を考えるときは『コアワクチンは本来どのくらいの間隔でよいのか』
ということと、『その子にノンコアワクチンが本当に必要か』とは分けて考えることが大切です。
ノンコアワクチンを勧められなかった犬は、抗体検査で接種回数を減らせる可能性も
ノンコアワクチンは、すべての犬に一律で必要とされるものではなく、生活環境や感染リスクによって必要性が変わるワクチンです。
そのため、獣医師の判断で「この子はコアワクチンを中心に考えればよい」となった場合には、毎年ワクチンを追加するのではなく、抗体検査を利用して接種の必要性を確認するという方法もあります。
WSAVAは、成犬のコアワクチンについて、院内で行う抗体検査の活用を支持しています。
またAAHAも、抗体価は『その抗原に対する免疫応答が起こったこと』を示す情報として利用できると説明しています。
つまり、ノンコアワクチンが不要な犬では、抗体検査(犬用ワクチチェック)を取り入れることで、毎年のワクチン接種を見直せる可能性があるということです。

ちゃんと抗体が残っているか知りたい場合は、動物病院で抗体検査について相談してみるのもひとつの方法です
抗体検査(犬用ワクチチェック)とは
抗体検査とは、ワクチン接種後に体の中へ免疫がしっかり残っているかを調べる検査です。
犬では、動物病院で血液を採取し、コアワクチンに対する抗体の有無を確認する検査として行われます。WSAVAは、こうした院内抗体検査を、成犬のコアワクチン追加接種を考える際の選択肢として支持しています。
検査方法は病院によって異なりますが、
- 院内で判定する方法
- 外部の検査機関に依頼する方法
のいずれかで行われることが一般的です。
血液検査になるため、犬にとっては注射の負担があります。ただし、抗体が十分に確認できれば、すぐに追加接種をせずにすむ場合があります。
獣医師に相談するときは、「ワクチンを打ちたくない」ではなく、「必要性を確認したうえで決めたい」という伝え方をすると、話しやすいかもしれません。
WSAVAでも、成犬のコアワクチンに対して抗体検査を活用する考え方が示されています。
そのため、抗体検査について相談すること自体は、特別なことではありません。
ただ、費用は病院によって異なりますが、抗体検査のほうがワクチン接種より高額になる場合もあります。実施の有無も含めて、事前に動物病院へ確認しておくと安心です。

下記に【犬用ワクチチェックができる動物病院が調べられるURL】を添付しています。
ワクチチェックのメリットとデメリット
犬用ワクチチェックのメリット
犬用ワクチチェックのデメリット
海外におけるワクチン接種の新しい流れ
ここまでの内容をまとめると、成犬のワクチン接種はおおむね次のように整理できます。
このように、海外のガイドラインでは、すべてのワクチンを一律に毎年接種するのではなく、ワクチンの種類やその子の暮らし方に応じて、必要なものを必要な頻度で接種するという考え方が重視されています。
WSAVA 2024年版でも、コアワクチンとノンコアワクチンは生涯にわたる防御を得るために必要な頻度でのみ使用すべきとされています。
また、海外のガイドラインでは、成犬のコアワクチンについて抗体検査を活用し、追加接種の必要性を確認するという考え方も示されています。AAHA 2022年版でも、血清抗体価は追加接種の判断材料として利用できるとされています。
日本では、狂犬病予防法や混合ワクチン製剤の事情もあるため、海外の考え方をそのまま当てはめることはできません。
それでも、『これまで毎年打ってきたから、今年も打つ』ではなく、その子に本当に必要かを考えながら接種するという視点は、これからますます大切になっていくのではないでしょうか。
今後、抗体検査の活用がより一般的になったり、ワクチンの選択肢がさらに広がったりすることで、必要な予防はしっかり行いながら、不要な追加接種を減らしていける環境が整っていくとよいなと思います。
【受診病院MAP】犬用ワクチチェック製品ホームページ
最後までお読みいただき、ありがとうございました(’ü’)




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