近年、量販店やホームセンターなど身近な場所で、一般的なペットフードに交じって療法食が並んでいるのをよく見かけるようになりました。
療法食は医薬品ではないものの、ペットの健康状態に与える影響は大きく、獣医師の指導に基づかない、あやまった使用による健康被害も報告されています。
そこで今回は療法食について、
などをまとめてみました。

※2024年10月から、ロイヤルカナンの療法食を通販で購入する場合、【かかりつけ動物病院の登録】が必須となりました。
療法食と総合栄養食の違い
獣医療法食評価センターの療法食ガイドラインによると、療法食とは、
特定の疾病または健康状態の犬猫の栄養管理のため、栄養成分の量や比率が調整又は特別な方法で製造され、一般的なペットフードとは異なる特別な管理が必要なペットフード
と定義されています。
一方、総合栄養食とは、AAFCO(米国飼料検査官協会)で定められた栄養基準(分析試験または給与試験)をクリアしたものをいい、そのペットフードと水だけで成長段階における健康を維持できるペットフードを指します。
総合栄養食として認められたフードのパッケージには、「この商品は、ペットフード公正取引協議会※の定める分析試験(または給与試験)の結果、総合栄養食の基準を満たすことが証明されています。」と記載されています。
※ペットフード公正取引協議会がAAFCOの基準を採用しているため、ペットフード公正取引協議会の定める分析試験とAAFCOの定める分析試験は同じものです。

療法食:特定の病気のために栄養成分が調整されたペットフード(治療のため、あえてAAFCOの基準を満たしていない栄養成分もある)
総合栄養食:そのペットフードと水だけで健康を維持できるフード
療法食の在り方検討委員会の報告
平成23年度、公益社団法人日本獣医師会は小動物臨床部会に【療法食の在り方検討委員会】を設置し、療法食の使用などについて全国の地方獣医師会に聞き取り調査を行いました。
その結果、犬で19例、猫で18例の健康状態に何らかの影響を与えた事例の報告が上がっています。
以下、療法食を正しく使用することで症状が改善した例、そして誤った使用で健康被害が出てしまった例を紹介します。
療法食を正しく使用することで症状が改善した例
Case1.15歳、ヨークシャーテリアの場合
Case2.6歳6ヶ月、雑種猫の場合

療法食の誤使用によって健康被害が出た例
Case3.年齢不明、雑種犬の場合
Case4.6歳、シャム猫の場合
Q.なぜ素人判断で療法食を使用してはいけないのか?
A.療法食には推奨使用期間があるから
総合栄養食のペットフードと異なり、療法食には推奨使用期間というものが定められています。
一例をあげると、以下のとおりです。
| 慢性腎不全の場合の腎機能サポート | 当初は6ヶ月以内 |
| 犬のストルバイト尿石の溶解 | 5~12週 |
| 急性腸吸収障害の軽減 | 1~2週 |
| 栄養回復、回復期 | 回復が達成されるまで |
| 骨関節炎の場合の関節代謝サポート | 当初は3ヵ月以内 |
このように、目的とする症状改善によって、療法食の推奨使用期間はバラバラに設定されています。
さらに、例えば「結石があるが、腎臓もよくない」など、他に別の疾患がある場合には、もっと短い期間で使用継続してもいいか確認する必要も出てきます。
療法食は万能健康フードではありません。
獣医師の判断によらない使用によって、愛犬・愛猫の状態が悪化してしまう可能性も十分にあるのです。
A.同じ診断でも使用すべき療法食がちがうこともあるから
ストルバイト結石か、シュウ酸結石か
上述のCase.4を見てください。
3年前と3年後の血尿で、原因はおなじ【結石】でした。にもかかわらず、「結石用のフードを食べ続けたことが3年後の結石の形成を助長したと考えられる」と書かれています。
じつは、原因となる結石がストルバイト結石かシュウ酸結石かで、尿のPHをどうしなければならないかが、まったくちがのです。
ストルバイト結石が原因の場合、尿を酸性化する特性を持つフードを与えなくてはいけません。しかし、シュウ酸結石が原因の場合、尿をアルカリ化する特性を持つフードを与えなければならないのです。
結石用のフードを与え続けていたにもかかわらず結石が再発したのは、そのためでした。

肝臓疾患のケース
犬の肝臓疾患の場合、
など、肝臓の微妙な状態変化によって、タンパク質の必要量が大きく変化します。
『肝臓の数値が悪い』という情報だけで、愛犬に与えるべき療法食を勝手に決めると、取りかえしのつかない事態になるかもしれません。
ネットで購入する場合には、かかりつけの獣医師に確認を!
わたし個人の意見としては、量販店やインターネットなどで購入することが悪いことだとは思いません。
そもそも療法食が必要な子は治療中の子であり、それでなくても治療費などで出費がかさみます。療法食を少しでも安いところで調達しようとするのは、むしろ賢いやり方だと思っています。
もちろん、個人経営の動物病院にとっては、療法食フードの販売も大事な収入源のひとつですから、「ほかのお店で買いたい」というと嫌な顔をされるところもあるかもしれません。
しかし、食事療法に関して何より大事なことは続けることです。
動物病院で購入するより、インターネットで購入するほうが安ければ、そちらを選ぶことは消費者として自然なことだと思います。
また、個人経営の動物病院では在庫置き場がないところが多く、注文して後日受取になることが多々あります。
その場合、注文先→動物病院→保護者のルートで商品を受け取るより、通販で注文した方が早く手元に商品が届く可能性があります。
早く商品が届くということは、それだけ早く食事療法がはじめられるということです。
入手時期、費用、消費期限ともに動物病院で購入するのも、インターネットで購入するのも変わらない場合や、少しでも動物病院の利益になればと考える場合などは、動物病院で購入されると良いと思います。

わたしの知り合いの獣医師は、安い店での購入を勧めてくれる方でした。こういうちょっとした気づかいがありがたいですね。
くりかえしになりますが、食事療法においては大切なのは、獣医師の指導に従って、必要な限りきちんと続けることです。「療法食は高いから」といって続かなければ、意味がありません。
インターネットで購入した方が自分にとってメリットが大きいと感じたら、そちらで購入したって構わないのです。
ただし、
最後までお読みいただき、ありがとうございました☻
・療法食ガイドライン,一般社団法人獣医療法食評価センター,改定2016年7月
・療法食の適正使用に向けた課題と対応,公益社団法人日本獣医師会,療法食の在り方検討委員会報告,平成25年6月
・日本ペット栄養学会テキストブック



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