はじめに
老犬が急にご飯を食べなくなると、「どこか体調が悪いのではないか」「このまま弱ってしまうのでは」と不安になりますよね。
実際、ペットシッターや老犬介護士としてお世話をしていると、

最近、めっきりご飯を食べなくなってしまって……
という相談を受けることはとても多いです。
もちろん、人は犬の言葉を理解することができないので、この記事に書いていることを試して食欲が戻ったとして『これが原因だった』と100%断言することはできません。
ただ、これまでの経験の中で『この方法を試したら、また食べるようになった』というケースが見られたのも事実です。
そこで今回は、
について、老犬介護士・ペットシッターとしての経験をもとに解説します。
愛犬の食事に悩んでいる方にとって、ひとつの参考になれば幸いです。
老犬がご飯を食べない原因
老犬がご飯を食べなくなる理由はいくつかあります。単なる老化による食欲低下の場合もあれば、体調の変化や病気が隠れているケースもあります。
老化による食欲低下
年齢を重ねると、若い頃のように身体を動かさなくなります。活動量が減れば、当然必要とするエネルギーも少なくなります。
その結果、自然と食欲が落ち、ご飯を食べる量が減ることがあります。
これは人間でも同じで、年齢とともに食事量が減るのは珍しいことではありません。動物にとっても、ごく自然な変化のひとつといえます。
この点、シニア期になったところで注意していただきたいのが『カロリーとフードの内容』。
身体をあまり動かさない状態であるにもかかわらず、若い頃と同じカロリー/同じフードを与え続けているケースを稀に見かけます。
カロリー超過を続けると、肥満につながる可能性があります。肥満は関節への負担だけでなく、さまざまな病気の原因にもなりかねません。
そのため、シニア期に入ったら
といった工夫を行うことが大切です。
もしも『愛犬が一日に必要とするカロリー』を計算したことがない場合は、一度確認してみることをおすすめします。
愛犬の体格や年齢に合った食事量を把握することで、食べない原因が『単なる老化による食欲低下なのかどうか』も判断しやすくなります。
歯や口のトラブル
食欲はあるように見えるのに、実際にはご飯を食べない場合、歯や口などの口腔内のトラブルが原因になっていることも少なくありません。
犬や猫にとって歯周病は決して珍しい病気ではなく、AAHA(米国動物病院協会)の報告によると、3歳頃には多くの犬や猫が何らかの歯周病を抱えているとされています。
『2022年版 疼痛の判別・診断と治療のWSAVAガイドライン』において、疼痛レベルの4段階のうち、口内炎の痛みは1位の『重度から耐えがたい痛み』に次いで2位の『中等度から重度の痛み』に分類されています。
つまり、口の中にトラブルがある場合、「ご飯を食べたくても、口の中が痛くて痛くて食べられない」という状態になっている可能性もあるのです。
などのような症状が見られる場合は、歯や口の病気が隠れている可能性がありますので、早めに動物病院で診察を受けることをおすすめします。
3歳になる頃には、ほとんどの犬や猫が何らかの歯周病を患っていますが、飼い主はそれに気づかないことがよくあります。歯周病を放置すると、口腔内の痛み、感染、炎症、その他の健康問題を引き起こし、ペットの生活の質を低下させます。適切な歯科処置を受けた後、多くの飼い主は、ペットがまるで別人のように元気になり、より幸せで活発になったと報告しています。
犬と猫はすべて歯科治療を必要とします。2019年版AAHA(米国動物病院協会)の犬と猫のための歯科治療ガイドラインは、獣医療チームが複雑で変化の激しい獣医歯科医療の世界を理解し、患者に最善の治療を提供するのに役立ちます。
参照:AAHA(米国動物病院協会) 『2019 Dental Care Guidelines for Dogs and Cats』犬・猫の口腔ケアに関する、獣医向けの包括的ガイドライン
実際、歯科治療を受けたあと「目の輝きが全然ちがうし、ご飯の食べ方が昔に戻った」と喜ばれる保護者さんもいらっしゃいました。
年を取って食欲が落ちたときは、ついつい「年齢のせいかな」と思いがちですが、じつは口の痛みが原因だったというケースもままあるので注意しましょう。
環境の変化/精神的ストレス
老犬がご飯を食べなくなる要因のひとつとして、環境の変化や精神的ストレスも考えられます。
たとえば次のような変化です。
このような『大きな環境の変化は、犬にとって少なからずストレスになる』ことについては、皆さん認識しておられますが、意外に見落とされがちなのが、小さな生活環境の変化。
たとえば、
このような、人から見れば小さな変化でも、性格的な問題で順応するまで時間がかかってしまう子もいます。
また、犬は年齢を重ねるほど、生活リズムや環境に対する自分なりのこだわりを持つことがあります。
そのため、若い頃はどんな変化にもすぐに適応できていた子でも、老犬になってくる過程で環境の変化に敏感になる、ということも珍しくありません。
新しい環境に慣れるまでは、できるだけ近くで見守り、安全な場所であることをゆっくり理解してもらうことが大切です。
もし食器を変えた、食事の場所を変えたなどの小さな変化が原因の可能性がある場合は、一度、以前の状態に戻してみるのもひとつの方法です。
環境を元に戻すだけで、再び食事をするようになるケースもあります。

病気の可能性
老犬がご飯を食べなくなったとき、病気が原因で食欲が落ちている可能性も考えなくてはなりません。
年齢を重ねると、体のさまざまな機能が少しずつ弱くなっていきます。そのため、若い頃よりも病気のリスクが高くなるのは自然なことです。
食欲低下の原因として考えられる病気には、次のようなものがあります。
ここにあげた以外にもさまざまな病気が関係している可能性はあります。気になる症状があれば、まよわず動物病院を受診するようにしましょう。
また、『食欲が落ちる=病気』と思われがちですが、じつは病気によって食欲が増えるケースもあります。
たとえば、
といった場合も、体に異常が起きている可能性があります。食欲があるとつい安心してしまいがちですが、いつもと違う食べ方をしている場合も注意が必要です。
シニア期に入った犬では、定期的な健康チェックが大切!!
一般的にシニア期とされる年齢の目安は次のとおりです。
この年齢を過ぎたら、最低でも
- 半年に1回の健康診断
- 年に1回の血液検査
を受けることをおすすめします。

腎臓疾患は血液検査よりも尿検査のほうが早く発見できる場合があるという報告もあります。
検査内容については、かかりつけの獣医師と相談してみてくださいね!
老犬が食べないときの対処法
動物病院で診察を受けても特に病気が見つからないのに、老犬がご飯を食べないことがあります。そのようなときは、食べやすい環境を整えることで食欲が戻るケースもあります。
ここでは、わたし自身の経験やお世話をしてきたご家庭で実際に試して効果があった方法を紹介します。
ご飯を温める
老犬がご飯を食べないときは、まず食事の温度を調整することから試してみるとよいでしょう。
犬や猫は、冷たい食事よりも少し温かい食事を好む傾向があります。そのため、缶詰やパウチのフード、手作りご飯などは、人肌程度に温めてから与えると食いつきが良くなることがあります。
また、ドライフードの場合でも
といった方法で、温かいご飯を提供することができます。
ただし、「療養食を食べさせているため、トッピングは難しい」、あるいは「ドライフードをふやかすと食べなくなる」という場合もあるかと思います。
そのような場合は、食器自体を温める方法がおすすめ。
まさかと思われると思いますが、食器を温めると食べてくれたということは、実体験で結構あるんです。犬や猫は食器に直接舌をつけて食べるため、器が温かいとフードそのものも温かいように感じてくれているのかもしれません。
ペット用の食器が電子レンジ対応であればレンジで数秒温めてもいいし、レンジが使えない食器の場合でも、熱湯を注ぐだけで簡単に温めることができます。

自分でも試してみるとわかりますが、冷えた食器と温かい食器では、舌に触れたときの感覚がかなり違います。
わが家では毎年冬の間は、猫の食器を軽くレンジで温めてからご飯を出すようにしています。

食事台の高さを変える
老犬になると、若い頃のように姿勢を自由に保つことが難しくなります。
そのため、食器の高さが合っていないことが原因で、ご飯を食べにくくなっているケースもあります。
このような様子が見られる場合は、食器の高さを調整してみましょう。
状況に応じて、次のような方法があります。
- これまで使っていた食器台が高そうなら、高さを少し下げる
- これまで床に置いていた食器なら、食器台を使って少し高くする
大切なのは、愛犬が無理なく食べられる姿勢になっているかどうかです。
食事のときの姿勢を横から見て、首や背中に無理な角度がついていないか確認してみてください。
ちなみに、食器台そのものを変える場合、環境の変化を嫌がる子もいるため、しばらくは以前の食器台も処分せずに様子を見ることをおすすめします。
老犬介護をしていると、『昨日までできていたことが、今日はできない』という変化に直面することがちょくちょくあります。
その変化は突然起こったように見えますが、そうではなく、昨日と今日がたまたま『出来る日』と『出来ない日』の境目だったというだけのこと。
子犬から成犬になる段階で『出来なかったこと』が『出来るようになった』日に境目があるように、成犬から老犬になるにつれ『出来ていたこと』が『出来なくなる』日にも境目がある。これも人生(犬生)の自然な流れです。
皆さんの愛犬は自分の身に起こった変化を受け止めて、今日という日を一生懸命がんばっているはずです。しっかり向き合って、一日一日を大切に過ごすようにしてくださいね。
食べ物を手で与えてみる
老犬になると、目が見えにくくなったり、嗅覚が弱くなったりすることがあります。そのため、ご飯の匂いや位置が分かりにくくなり、食欲が湧かなくなっている可能性もあります。
また、もともと食が細かったり、食事への執着が強くない犬の場合、病気ではないのにご飯を食べなくなることも。
そのようなときは、一度手から与えてみる方法を試してみてください。
保護者さんの手から直接ご飯をもらうことで、
といった理由から、食べ始めることがあります。
ドライフードの場合は、まず一粒ずつ口元に運んでみるとよいでしょう。食べるようになったら、そのタイミングで食器を近づけてみます。
こうすることで、手から食べる流れでそのまま食器のフードを食べてくれることもあります。
ただし、手からしか食べなくなると、どうしても食事に時間がかかるようになります。そういうときは、1回の食事量を減らして回数を増やす方法(※後述)をおすすめします。
1回の食事の量を少なくすることで、
- 犬の集中力が続きやすくなる
- 1回の食事にかかる時間を短くできる
というメリットがあります。
結果として、犬にとっても保護者さんにとっても、食事のストレスを減らすことにつながります。
1回の食事量を減らして回数を増やす
老犬になると、若い頃に比べて運動量が減るため、食事量そのものが少なくなることがあります。
そのような場合、無理に一度にたくさん食べさせようとすると、かえって食事が嫌になってしまうことも。
そこでおすすめなのが、『1回あたりの食事量を減らして、食事回数を増やす方法』。
1回の食事を腹八分目で終えることで、『食べきれたという達成感をもてる』、『もう少し食べたいという前向きな気持ちが残る』などのメリットが見込まれます。
食が細くなってきた子にとっては、食事の時間を『楽しく美味しい時間』として記憶してもらうことが何より大切。

もう少し食べてもいいかも……
と思うくらいの量で食事を終え、その分、食事の回数を増やして調整していきます。
また、1回の食事量が少なくなることで
といったメリットもあります。
ただし、食事回数が増えると、どうしても保護者さんの負担は大きくなります。そのため、保護者さんにも無理のない範囲で、愛犬と一緒にちょうどよい食事回数を見つけていくことが大切です。

食に関してポジティブな興味を持ち続けてもらうことができれば、自分から食べるようになってくれることも。そのために重要なことは『食事の時間は楽しい』と思ってもらうこと。
明るく声かけをしたり、食べる間はそばにいてあげたり。自分なりに出来ることの範囲で楽しい食事の時間を演出してみてください。
病院に行くべきサイン
ここまで、老犬がご飯を食べない原因についていくつか紹介してきました。ただ、実際にはさまざまな要因が重なっていることもあり、原因をはっきり特定するのは簡単ではありません。
また、わたしは獣医師ではないため、医学的な診断をすることはできません。
そのうえで、これまで多くの老犬と接してきた経験から言える『動物病院を受診したほうがよいサイン』があります。
それは保護者さんが「何だか、いつもと様子が違う」と感じたとき。
たとえば、
こうした小さな変化に気づけるのは、毎日一緒に暮らしている保護者さんだけです。
実際に動物病院を受診して、何も問題がなければそれで安心できます。一方で、もし体調の変化が隠れていた場合でも、早い段階で気づくことができれば早期発見・早期治療につながる可能性があります。
よく『犬の1日は人間の4日分に相当する』などと言われます。つまり、1日様子見をするということは、人間で言ったら4日様子見をしている、ということ。
保護者さんが感じるちょっとした違和感は、決して軽視できない大切なサインです。
いつの日か後悔することのないように、たとえどんなに小さな気づきであっても、気になることがあれば早期受診をおすすめします。
食事補助グッズ
老犬がご飯を食べにくくなっている場合、食事環境を整えることで食べやすくなるケースもあります。
ここでは、老犬介護の現場でもよく使われる食事補助グッズを紹介します。
食器台(フードボウルスタンド)
食事台を使うことで、首や足に負担の少ない姿勢で食事ができるようになります。
とくに老犬の場合は、
といった理由で、床置きの食器が食べにくくなっていることがあります。
そのような場合は、次のようなタイプの食器台がおすすめです。
高さが調整できる食器台
成長や体調の変化に合わせて高さを変えられるため、長く使いやすいタイプです。
斜めになっている食器台
食器が傾いているため、フードが手前に集まり、老犬でも食べやすくなる設計になっています。
なお、小型犬などで大きな食器台が必要ない場合は、100円ショップの木材などを使ってDIYする方法もあります。また、ぐらつきにさえ気をつければ、手ごろな本などでも十分食事台として機能します。
高さを少し調整するだけでも、食べやすさが変わることがあります。ぜひ、体に負担ない体勢で食べられるようにしてみてください。
食事補助グッズ
自力で姿勢を保つのが難しくなってきた場合は、食事をサポートするグッズを使う方法もあります。
首元を支える介護クッション
首や胸の位置を安定させることで、食事の姿勢を保ちやすくなります。
犬用車いす
前にフレームが付いているタイプの車椅子だと体全体が保定できるため、後ろだけではなく前足も弱っている子でも、体を支えながら食事や散歩を行うことができます。
※※寝たきりの子の食事介助の注意点※※
寝たまま食事を与える場合は、誤嚥を防ぐために姿勢を工夫することが大切です。
など、無理をさせない程度に上半身を起こした姿勢にしてから食事を与えるようにしましょう。
まとめ
食事は、犬にとっても大切なエネルギー源です。
老犬がご飯を食べなくなると心配になりますが、病気以外の原因でも年齢による体の変化や環境の影響など、さまざまな理由が考えられます。
今回紹介したように、
といった小さな工夫で、再び食べるようになるケースも少なくありません。
また、食事環境を整えるために
などを取り入れることも役立つことがあります。
なお、運動量の低下による食欲の落ち込みには、
といった、無理のない運動も良い刺激になります。

ただし、食欲の低下が病気のサインである可能性も十分に考えられるため、「いつもと違う」と感じたときは、早めに動物病院に相談するようにしてくださいね。
老犬介護は、思い通りにいかないことも多いものです。焦らず、その子のペースに合わせながら、少しずつ試していきましょう。
愛犬との時間が、少しでも穏やかで心地よいものになることを願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました(’ü’)
- AAHA(米国動物病院協会)『2019 Dental Care Guidelines for Dogs and Cats』
- WSAVA『2022年版 疼痛の判別・診断と治療のWSAVAガイドライン』
- 改訂版 イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科






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