はじめに
ペットシッターの仕事は、毎回同じことの繰り返しではありません。
いつものごはん、いつものお散歩、いつものトイレ掃除。そうした日常のお世話が基本ではありますが、相手が生き物である以上、どんなに元気に見えていた子でも急に体調を崩す可能性はあります。
たとえば、訪問したときにはすでに様子がおかしかったり、お世話の途中でぐったりしてしまったり、急に発作のような異変が起きたりすることもあるかもしれません。
こうした場面でシッター自身があわててしまうと、保護者への連絡やその後の対応への遅れにつながります。
獣医師や動物看護師ではないペットシッターには、医療行為を行うことはできません。だからこそ、もしもに備えて、対応の流れをあらかじめ整理しておくことが大切です。
この記事では、ペットシッター中にペットの体調が急変したときの基本的な対応手順と、事前打ち合わせで確認しておきたいことをわかりやすくまとめます。
ペットシッター中の急変は、特別なことではない
ペットシッターの仕事に興味を持っている方の中には、『急変なんてめったにないのでは』と感じる方もいるかもしれません。
たしかに、頻繁にそうしたことが起きるわけではありませんが、現実には年齢や持病の有無にかかわらず、急な体調変化が起こる可能性はつねにあります。
たとえば、
原因はさまざま考えられます。
大切なのは、『体調の急変なんて絶対に起こらない』と思い込まないことです。そして、もし起きたとしても必要以上に自分を責めるのではなく、落ち着いて対応できるよう準備しておくことが重要です。
まず大切なのは、あわてず状況を確認すること
ペットの様子がおかしいと感じたとき、真っ先に必要なのは冷静さです。
実際の現場では気が動転しやすいものですが、だからこそ、最初に何を確認するかを決めておくと動きやすくなります。
呼びかけに反応があるか
ペットの名前を呼んだとき、こちらの声や気配に反応するかを見ます。
呼吸はしているか
胸やお腹の動き、呼吸の速さ、苦しそうな様子がないかを確認します。ペット自身の毛などでわかりにくいときは、ティッシュを口元にかざしたり、お腹の上にのせて、その動きを見ることでもわかります。
自分で立てるか、歩けるか
立ち上がれない、ふらつく、倒れたまま動けないといった様子がないかを見ます。
嘔吐、けいれん、出血などがないか
見た目でわかる異変があるかを確認します。
ケージなどに入っていない子の場合には、今、ペットがいる場所だけではなく、シッター到着までの間にいたであろう空間も確認し、嘔吐や尿の跡などを探してみてください。
いつもと違う様子がどの程度あるか
食欲がない、水を飲まない、隠れて出てこない、鳴き方が違うなど、普段との違いを整理します。
このとき、自己判断で薬を飲ませたり、人間用のものを使ったりするのは絶対にしてはいけません。ペットシッターに必要なのは、診断することではなく、状態を観察して適切につなぐことです。

ペットの体調が急変したときの基本的な対応手順
急変時は、頭が真っ白になりやすいからこそ、流れを決めておくことが大切です。ここでは基本的な手順を順番にまとめます。
安全を確保しながら様子を確認する
まずは、ペット自身と周囲の安全を確保します。
たとえば、転落しそうな場所にいる、吐いたものをのどに詰まらせそう、パニックになってまわりの家具にぶつかりそう、という場合には、無理のない範囲で危険を遠ざけます。
ただし、無理に抱き上げたり、強く押さえつけたりすると悪化することもあります。痛みや混乱があるときは、普段おとなしい子でも思わぬ反応を見せることがあるため注意が必要です。

てんかん発作を持病に持っている子で、『もしも発作が起きたら、治まるまでバスタオルに包んで、このケージに入れてください』とお願いされたことがあります。
幸い、わたしのお伺い時に発作が起こることはありませんでしたが、『この子はいつ発作が起きてもおかしくない』という緊張のなかにも、『発作が起きたら、次にすべきことは決まっている』という安心感を持ってお世話にあたることができました。
保護者にできるだけ早く連絡する
急変時は、まず保護者さんへの連絡が基本です。電話が第一ですが、つながらない場合はメッセージも送り、記録が残る形でも連絡しておくと安心です。
連絡するときは、あわてた言葉よりも、事実を簡潔に伝えることが重要です。
を整理して伝えると、保護者さんも判断しやすくなります。
急変時の連絡テンプレート
保護者へ電話・メッセージするときの例文
【連絡例】
○時ごろ訪問し、○○ちゃんの様子を確認したところ、いつもと違う様子が見られました。現在は、
という状態です。
必要に応じて、かかりつけの動物病院への連絡や受診を検討したいと考えています。ご確認のうえ、ご連絡をお願いいたします。
もう少し緊急性が高い場合の例文
【緊急時の連絡例】
○時ごろ訪問したところ、○○ちゃんがぐったりしており、呼びかけへの反応が弱い状態です。
現在、~~~という状態で、立ち上がることができません。これから、事前にご相談していた方針に沿って、病院への連絡または受診を進める必要があると考えています。
お電話を差し上げていますが、ご確認いただけましたら至急ご連絡をお願いいたします。
連絡時に意識したいポイント
事前に決めていた方針を確認する
急変時の対応は、事前打ち合わせで方針を決めておくことで迷いが大きく減ります。
たとえば、
といった内容です。
この取り決めがあるかどうかで、実際の現場での動きやすさはかなり変わります。
必要に応じて動物病院へ連絡する
保護者さんと連絡が取れたら、その指示に従って病院への連絡や受診を進めます。
もしすぐに連絡が取れない場合でも、あらかじめ『緊急時は受診を優先する』と決めておけば、その方針に沿って動くことができます。
なお、旅行や連休中はシッティング依頼が増える一方で、かかりつけ動物病院が休診していることもあります。
そのため、休診日の連絡先まで事前に確認しておくことがとても大切です。

開いている動物病院を保護者さんにもお伝えしておくと、わたしが連れて行けなくても、保護者さんが帰ってきて(または、誰かにお願いして)連れて行くこともできます。
経過を記録しておく
急変時は、その後の説明や共有のために記録が欠かせません。
記録しておきたいのは、
などです。
スマートフォンで写真や動画を残すとともに、必要に応じてそれらの画像を提示できるようにしておくと、保護者さんや受診先の獣医師とも状況共有がしやすくなります。

到着したときに、すでに異変があった場合
急変は、お世話の途中に起きるとは限りません。訪問してすぐに、『あれ、何だか様子がおかしい』と気づく場合もあります。
このときも基本の流れは同じです。
まずは落ち着いて状態を確認し、保護者さんへ連絡し、必要があれば病院への相談につなげます。
大切なのは、過度に焦らないことです。
到着直後の様子を冷静に確認し、事実として記録を残しておくことが大切です。
ペットシッターができること・できないこと
急変時には、『どこまで対応してよいのか』が曖昧だとトラブルにつながりやすくなります。
ペットシッターは医療職ではないため、できることとできないことを明確にしておく必要があります。
ペットシッターが担うべきなのは、事実を冷静に保護者さんに伝え、実際に判断を行う保護者さんや獣医師へつなぐことです。
事前打ち合わせで確認しておきたいこと
急変時に本当に役立つのは、その場のひらめきよりも事前準備です。打ち合わせの段階で、次のことは事前に確認しておきたいところです。
かかりつけ動物病院の情報
病院名、電話番号、住所、休診日を控えておきます。
休診時の連絡先
お伺いの日時にかかりつけ医が休診であることが事前に判明している場合には、夜間救急や休日対応の病院、または代わりに相談できる病院があるかも確認しておくと安心です。
保護者の緊急連絡先
保護者さん本人の携帯電話だけでなく、つながらない場合の連絡先も何件か教えてもらっておくと安心です。
受診の判断基準
どのような場合に受診するのか、保護者さんの希望を聞いておきます。
受診時の移動方法
自家用車で仕事をしている場合には、その車にペットを乗せて移動できますが、徒歩や公共交通機関を利用している場合には、保護者さんの車を借りる、タクシーを呼ぶなど、『どうやってペットを動物病院まで連れて行くか』まで事前に決めておきましょう。
費用負担や支払い方法
緊急受診になった場合の診察代や交通費をどうするかも、可能な範囲で取り決めておきたいポイントです。
ペット保険に入っている方もいらっしゃいますので、万が一に備えて、ペット保険の保険証とかかりつけ医の診察券は、自宅のわかる位置に置いておいてもらうようにしておくと安心です。
持病やその子のクセなどの注意点
持病の有無、服薬中の薬、発作歴、誤飲しやすい癖などがあれば必ず確認しておきます。
こうした内容は、カルテや契約書、初回打ち合わせシートに入れておくと、後から見返しやすくなります。
事前確認チェックリスト
急変時は、頭ではわかっていても、実際にはあわててしまいやすいものです。
そのため、連絡のしかたや事前確認項目をあらかじめ形にしておくと、いざというときに落ち着いて動きやすくなります。
これらは一度決めておけば、毎回の打ち合わせや契約時にも活かしやすくなります。
『もしもの備え』まで整えておくことは、ペットのためだけでなく、保護者さんとペットシッター双方の安心にもつながります。
急変は、本当に予測できないことがある
以前、猫を複数飼っているご家庭からご予約をいただき、お伺いの前日に鍵の受け取りに伺ったことがありました。その際、保護者さんから「じつは今朝、一頭亡くなったんです」と言われ、とても驚いた経験があります。

打ち合わせの時点では猫4頭でのご依頼でしたが、実際にお世話にあたれたのは3頭だけになってしまいました。
保護者さんご自身も大きな異変には気づいていなかったそうで、突然のことだったそうです。詳しい経緯はわかりませんが、発作のような形で急に旅立ってしまったとのことでした。
その話を聞いたとき、もしこれが一日ずれていて、自分がシッティングに入る日だったらと思うと、何とも言えない気持ちになりました。
医療者ではないペットシッターとしてできることには限りがありますが、だからこそ、予測できないことが起こる前提で準備しておくことの大切さを強く感じました。
この体験は、不安をあおるためではなく、生き物のお世話には『絶対に大丈夫、はない』ことを教えてくれた出来事として心に残っています。
まとめ
ペットシッター中の急変は、できれば起きてほしくないことです。ですが、どれだけ丁寧にお世話をしていても、予測できない体調変化が起こる可能性はゼロではありません。
そんなときに大切なのは、
ペットの急変時の対応は、その場の判断力だけでなく、事前打ち合わせの質に大きく左右されます。
これからペットシッターを目指す方や、開業したばかりの方は、通常のお世話内容だけでなく、もしものときの流れまで含めて準備しておくことを意識してみてください。
それが、ペットにとっても、保護者さんにとっても、そしてシッター自身にとっても安心につながります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。



コメント