はじめに
ペットシッターの仕事を始めるとき、実際に依頼を受ける前に考えておきたい大切なもののひとつが、契約書です。
「口頭で説明しているから大丈夫」
「メッセージでやり取りしているから問題ない」
と思う方もいるかもしれません。
しかし、ペットシッターの仕事では、訪問日時、鍵の預かり、キャンセル、緊急時の対応、料金、責任の範囲など、事前に決めておくべきことがたくさんあります。
あいまいなまま依頼を受けてしまうと、あとから『聞いていない』『そこまでお願いしたつもりだった』『そんな話ではなかった』と、行き違いが起きることもあります。
契約書は、お互いに安心して依頼を進めるために、約束ごとを見える形にしておく大切な書類です。
この記事では、ペットシッターに契約書が必要な理由と、事前に整理しておきたい項目、カルテとの違いについてまとめます。
これからペットシッターを始めたい方や、開業準備中の方は、自分の仕事を守るための土台として参考にしてみてください。
ペットシッターに契約書は必要?
口約束だけでは、あとから確認しにくい
ペットシッターの仕事は、保護者さんの自宅に訪問し、大切なペットのお世話をする仕事です。そのため、信頼関係がとても大切です。
ただし、信頼関係があるからこそ、事前の取り決めを形にしておくことも必要になります。
なぜなら、口頭で説明した内容は、時間が経つとお互いの記憶が少しずつずれてしまうことがあるからです。
たとえば、
こうした内容を口頭だけで済ませてしまうと、あとから確認するのが難しくなります。
契約書は、相手を疑うためのものではありません。
お互いに安心して依頼を進めるための確認書のようなものです。
契約書は、保護者さんの安心にもつながる
契約書というと、少し堅苦しい印象を持つ方もいるかもしれません。
けれど、ペットシッター側が事前にルールを整理していることは、保護者さんにとっても安心材料になります。
「料金はどこまで含まれるのか」
「急な変更があった場合はどうなるのか」
「万が一のときはどう対応してもらえるのか」
こうしたことが事前にわかっていれば、保護者さんも依頼しやすくなります。
契約内容をきちんと文面で整理しておくことで、「仕事として丁寧に対応している」という印象につながります。
契約書がないと困りやすい場面
依頼内容の認識がずれる
契約書がない場合に起こりやすいのが、依頼内容の認識違いです。
たとえば、保護者さんは『このくらいは含まれていると思っていた』と考えていても、ペットシッター側は『そこまでは依頼内容に入っていない』と考えていることがあります。
具体的には、
などです。
『あることに気づいたので、善意で今回だけ対応したつもり』だったことが、次回以降の前提になってしまうこともあるため、どこまでが基本サービスで、どこからが追加対応なのかを事前に整理しておくことが大切です。
料金やキャンセル料で行き違いが起きる
料金に関することも、行き違いになりやすい部分です。
基本料金だけを伝えていた場合、あとから交通費、駐車場代、時間延長、繁忙期料金などを説明したときに、保護者さんが戸惑うことがあります。
また、キャンセル料についても、事前に明確にしておかないとトラブルになりやすいです。
ペットや保護者さんの体調不良など、キャンセルせざるを得ない事情があることもあります。
一方で、ペットシッター側もその日の予定を確保しているため、直前のキャンセルが続くと仕事として成り立ちにくくなります。
だからこそ、契約前の段階で、
などを整理しておく必要があります。
緊急時の判断に迷う
ペットシッターの仕事では、訪問中にペットの体調変化に気づくこともあります。
食欲がない、吐いている、元気がない、ケガをしているなど、状況によっては動物病院への相談や受診が必要になることもあるでしょう。このとき、事前の取り決めがないと、ペットシッター側が判断に迷ってしまいます。
「病院に連れて行ってよいのか」
「どの動物病院を利用するのか」
「治療費の支払いはどうするのか」
「保護者さんと連絡がつかない場合はどう判断するのか」
こうしたことは、小さな誤解が大きなトラブルにつながりやすい場面でもあります。緊急時の対応方針は、契約書や事前確認書類で必ず整理しておきたい項目です。

責任の範囲があいまいになる
ペットシッターは細心の注意を払ってお世話にあたりますが、すべての出来事を完全に防げるわけではありません。
たとえば、ペット自身の行動による室内の損傷、保護者さんが用意したリードやハーネスの劣化による事故、自然災害による影響などは、ペットシッターだけで管理しきれない場合があります。
もちろん、だからといって「何があっても責任を負わない」と考えるのは違います。
大切なのは、ペットシッターが責任を持って対応する範囲と、管理しきれない範囲を事前に確認しておくことです。
責任の範囲があいまいなままだと、万が一のときに水掛け論になりやすくなります。
契約書では、どこまでがペットシッターの管理範囲なのか、どのような場合は免責となるのかを、保護者さんにもわかる形で整理しておくと安心です。
契約書に入れておきたい主な項目
実際の契約書を作成する場合は、サービス内容や地域の事情に合わせて調整し、不安がある場合は専門家に確認すると安心です。
契約期間と依頼対象
契約書には、いつからいつまでの依頼なのかを記載しておくようにしましょう。
ペットシッターの依頼は、1日だけの場合もあれば、数日間続く場合もあります。
契約期間があいまいなままだと、どの訪問までが今回の契約に含まれるのかがわかりにくくなることがあります。
たとえば、
などは書面でもきちんと確認しておくとよいでしょう。
特に多頭飼いの場合、『全員を見るのか』『特定の子だけなのか』によって、必要なお世話や料金が変わることもあります。
契約書では、契約期間と対象となるペットを整理し、依頼の範囲をはっきりさせておくことが大切です。

「普段、家には3頭いますが、そのうち1頭は動物病院付属のホテルで預かってもらうことにしました」ということもあります。頭数の確認は必ずするようにしましょう。
サービス内容と対応範囲
次に整理しておきたいのが、サービス内容と対応範囲です。
ペットシッターの仕事は、依頼する方によって対応する内容は異なります。
食事の用意、トイレ掃除、遊び、散歩、簡単な室内確認、報告など、どこまでを基本サービスに含めるのかを明確にしておきましょう。
あわせて、対応できないことも整理しておくと安心です。
たとえば、医療行為にあたる可能性があること、危険を伴う作業、専門外の対応などは、無理に引き受けない姿勢が必要です。
できることだけでなく、できないことも明確にしておくことが、ペットシッター自身を守ることにもつながります。
訪問日時と時間
訪問日、訪問時間、1回あたりの滞在時間も、契約書に入れておきたい項目です。
ペットシッターの仕事では、交通状況や天候、前後の予約状況によって、多少の時間調整が必要になる場合もあります。
そのため、訪問時間をどの程度まで細かく決めるのか、時間指定に対応できるのか、幅を持たせるのかなど、自分の運営方針に合わせて整理しておくとよいでしょう。
また、延長が必要になった場合の扱いも決めておくと安心です。
延長料金が発生するのか、どのような場合に延長対応できるのかを事前に決めておくことで、あとからの行き違いを防ぎやすくなります。
料金・追加料金・支払い方法
料金に関する項目は、できるだけわかりやすく整理しておきましょう。
基本料金だけでなく、
- 初回登録料
- シッティング費用
- 交通費
- 駐車場代
- 時間延長料金
- 多頭料金
- 繁忙期料金
- 早朝・夜間料金
- 鍵の受け渡しに関する費用
など、必要に応じて追加料金の考え方も明記しておくと、あとから説明しやすくなります。
特に、交通費や駐車場代は見落とされやすい項目です。
『交通費や駐車場代も基本料金に含まれていると思っていた』と受け取られないように、どの費用が別途必要なのかを事前に伝えておきましょう。
支払い方法についても、現金、銀行振込、キャッシュレス決済など、自分が対応できる方法を決めておく必要があります。
支払いのタイミングも、前払い、当日払い、後払いなど、あいまいにしないことが大切です。

わたしは鍵の返却と同時に支払いをお願いしていますが、前払いにしておくと、キャンセル時の精算方法も決めやすくなります。
キャンセル・変更の扱い
キャンセルや日程変更についても、事前に決めておきたい項目です。
ペットシッターは、予約が入った時点でその時間を確保します。
そのため、直前のキャンセルがあると、ほかの依頼を受けられなかった分の損失が出ることもあります。
とはいえ、保護者さん側にも、急な予定変更や体調不良などの事情があるかもしれません。
だからこそ、感情的なやり取りにならないように、キャンセル料の発生条件や変更可能な期限をあらかじめ決めておくことが大切です。
たとえば、
などを整理しておくと安心です。
キャンセル料の考え方や伝え方については、別記事でも詳しくまとめています。
鍵の預かりと返却方法
ペットシッターの仕事では、保護者さんの自宅の鍵を預かるケースが多々あります。鍵は、ペットの命を守るためにも、保護者さんの生活を守るためにも、とても重要なものです。
契約書や確認書類には、
などを整理しておくと安心です。
少し専門的な言葉になりますが、鍵やリードなど、保護者さんから預かる物については、シッターは『善管注意義務』を負います。簡単にいうと、ペットシッターとして『一般的・客観的に要求される程度の注意』をもって、預かった物を管理しなくてはならないという意味です。
鍵に関するルールがあいまいだと、万が一のときに大きなトラブルにつながる可能性があります。

緊急時の連絡先と受診判断
ペットの体調変化や事故に備えて、緊急時の対応も決めておきましょう。
確認しておきたいのは、
などです。
ペットシッターが独断で判断しすぎるのは避けたいところですが、連絡がつかない場面で何もできないのも危険です。
これについても、『どのような場合に動物病院へ相談するのか』『どの範囲まで対応するのか』を事前に契約書上で決めておくことで、緊急時にも動きやすくなります。
予防接種や健康状態の確認
ペットの種類によっては、法律で義務づけられている予防接種や、事前に確認しておきたい健康状態があります。
たとえば犬の場合、狂犬病予防接種の確認は大切な項目です。
また、感染症の疑いがある場合や、極端に体調が不安定な場合は、通常のペットシッター対応では難しいこともあります。
ペットシッター自身を守るためだけでなく、ほかの保護者さん宅のペットや第三者を守るためにも、必要な確認事項は契約前に整理しておきましょう。
ただし、健康状態の細かい記録やご飯などの要望は、契約書ではなくカルテや事前打ち合わせシートで確認する方が向いています。
契約書では、必要な予防接種や申告事項の有無を確認し、カルテでは具体的なお世話情報を記録する、と役割を分けるとわかりやすくなります。
免責事項と責任の範囲
契約書では、ペットシッターが責任を負う範囲と、管理しきれない範囲についても整理しておきます。
たとえば、
などは、ペットシッターだけでは防ぎきれない場合があります。
ただし、免責事項は「何があっても責任を負わない」と主張するためのものではありません。
どこまでがペットシッターの管理範囲なのかを事前に確認し、保護者さんにも理解してもらうための項目です。
ペットシッター側に過失がある場合と、管理しきれない事情によって起きたことは、分けて考える必要があります。
責任の範囲をあいまいにしたまま依頼を受けてしまうと、万が一のときに水掛け論になりやすくなります。安心して仕事を引き受けるためにも、免責事項は契約前に確認しておきたい部分です。
契約書とカルテは何が違う?
契約書は『約束ごと』を確認するもの
契約書は、ペットシッターと保護者さんのあいだで、仕事の条件やルールを確認するためのものです。
たとえば、
- 契約期間
- 料金
- 訪問日時
- キャンセル
- 鍵の管理
- 緊急時の対応
- 責任の範囲
- 個人情報の扱い
など、サービスを行ううえでの約束ごとを整理して記載します。
つまり契約書は、『どのような条件で依頼を受けるのか』を確認するための書類になります。
カルテは『ペットのお世話情報』を記録するもの
一方で、カルテはペットのお世話に必要な情報を記録するものです。
たとえば、
などをまとめます。
カルテは、実際のお世話を安全に行うための情報記録です。
契約書が『仕事をするうえでの約束ごと』を整理するものだとすれば、カルテは『その子のお世話に必要な情報』を整理するものと考えるとわかりやすいでしょう。
どちらか一方ではなく、両方あると安心
契約書とカルテは、役割が違います。
契約書だけでは、ペットの性格や食事内容までは十分に記録できません。
反対に、カルテだけでは、料金やキャンセル、責任の範囲などの取り決めが不足しやすくなります。
そのため、ペットシッターとして仕事を受けるなら、契約書とカルテは分けて用意しておくのがおすすめです。
書類が分かれていると、自分自身も理解しやすくなりますし、それをきちんと保護者さんにも説明しやすくなります。
「契約書ではサービスの条件を確認し、カルテではお世話に必要な情報を確認します」と伝えれば、相手にも目的が伝わりやすくなるでしょう。
ペットの性格や食事内容、トイレの様子など、お世話に必要な確認項目については、初回打ち合わせの段階で整理しておくと安心です。
契約書を作るときに気をつけたいこと
難しい言葉ばかりにしない
契約書というと、専門的で難しい文章をイメージするかもしれません。
もちろん、必要な内容を正確に書くことは大切です。
ただ、保護者さんが読んでも意味が伝わらない文章になってしまうと、確認書類としての役割を果たしにくくなります。
契約書は、ペットシッター側だけが理解していればよいものではありません。
保護者さんにも内容を理解してもらい、納得したうえで依頼してもらうためのものです。
専門的な内容が必要な場合でも、できるだけわかりやすい言葉で説明することを意識しましょう。
自分に都合のよい内容だけにしない
契約書は、ペットシッターを守るためにも必要なものです。
ただし、ペットシッター側に都合のよい内容ばかりを並べてしまうと、保護者さんに不信感を与えてしまいかねません。
大切なのは、責任をすべて避けることではなく、どの範囲で対応できるのかを明確にすることです。
たとえば、ペットの体調変化は完全に防げるものではありません。
一方で、ペットシッターとしてできる範囲で注意を払って対応することは必要です。
契約書を作成する場合、『何があっても責任を負いません』という姿勢ではなく『安全に配慮して対応するために、事前に確認できることを整理します』という考え方で作ると、保護者さんにも受け入れてもらいやすいものになります。
サービス内容に合わせて見直す
契約書は、一度作ったら終わりではありません。
実際に仕事をしていくなかで、想定していなかった場面に出会うこともあります。
問い合わせが増えたり、対応メニューが変わったり、料金を見直したりすることもあるでしょう。
そのたびに、契約書の内容も見直していく必要があります。
特に、
- 料金を変更したとき
- 対応エリアを変えたとき
- キャンセルポリシーを見直したとき
- 新しいサービスを追加したとき
- トラブル対応の方針を変えたとき
などは、契約書の内容もあわせて確認しておくと間違いを防ぐことにもつながります。
サービス内容と契約書の内容がずれていると、かえって行き違いの原因になります。
不安がある場合は専門家に確認する
契約書は、ペットシッター自身でたたき台を作ることもできます。
ただし、法律に関わる内容や、損害賠償、免責、契約解除などの項目は、書き方によって受け取られ方が変わることがあります。不安がある場合は、行政書士や弁護士など、契約書に詳しい専門家に確認してもらうと安心です。
特に、事業として継続的にペットシッターを行う場合は、最初に整えておくことで、あとから大きな修正をせずに済むこともあります。
契約書は、完璧なものを一度で作るというより、自分のサービスに合わせて整えていくものと考えるとよいでしょう。

わたしは、自分で作成した契約書のたたき台を一度、無料相談会で弁護士さんに相談しました。その後、正式に料金をお支払いして、その弁護士さんに契約書を作成してもらうことになりました。お金はかかりましたが、その分、安心して使えます。
まとめ|契約書は、安心して仕事を続けるための土台
ペットシッターの契約書は、シッターと保護者さんの双方の考えをすり合わせるために必要なものです。
口頭だけのやり取りでは、あとから確認しにくいことがあります。
契約期間、依頼対象、訪問内容、料金、キャンセル、鍵の管理、緊急時の対応、責任の範囲などは、事前に書面で確認しておくと安心です。
また、契約書とカルテは役割が違います。
契約書は、サービスの条件や約束ごとを確認するもの。
対して、カルテは、ペットのお世話に必要な情報を記録するものです。
どちらか一方だけではなく、両方を整えておくことで、保護者さんにも説明しやすくなり、仕事としての安心感も高まります。
開業したばかりのころは、契約書を用意することに少しハードルを感じるかもしれません。
それでも、事前に決めておくべきことをひとつずつ整理していくことは、ペットシッターとして長く信頼されるための大切な準備です。
大切なペットを任せてもらうためにも、そしてペットシッター自身が無理なく仕事を続けるためにも、契約書は大切な土台になります。
開業前の重要な準備のひとつとして、少しずつ整えておきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。





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