はじめに:ペットシッターは誰にでもできる?
ペットシッターという仕事をしていると「大変そう」や「私には無理」という反応を向けられることがまれにあります。
こういうとき「そんなことないよ!」「誰でもできる仕事だよ♪」と軽くかわせばいいのですが、ついつい、「わかる。わたしも毎日何も起こりませんようにってビクビクしてるよ」と返してしまいます。
たしかに、わたしは動物が好きでこの仕事を選びました。
それでも、「やっぱり自分には向いていないな……」と落ち込むようなことがないわけではありません。
ペットシッターは、ただ『動物が好き』という気持ちだけでは務まらない仕事です。
ペットの命を預かる責任があり、飼い主との信頼関係を築くことも重要です。
本記事では、自分がペットシッターに向いているのかをチェックできるように、向いている人・向いていない人の特徴を解説していこうと思います。
ただし、向いていない特性があっても大丈夫。
向いていないと思う特性があっても、「自分の特性を理解して、プロとして、引くべき一線はしっかりと引く」ことを意識すれば【良いペットシッターになる】ことは可能だと、わたしは信じています。
ペットシッターに向いている人の特徴
動物の気持ちを考えられる人
残念ながら、動物はヒトの言葉を話せません。
「自分の家のペットのことなら、なんとなく言いたいことが分かる」という人は多いかと思いますが、よそ様の家の、ましてや、はじめてお会いするペットたちの気持ちを察することができる、というのは、よほど特殊な能力をお持ちの方でないかぎり、なかなか難しいでしょう。
初回の打ち合わせでちょっとでも顔をあわせておく(できればにおいを知ってもらう)ことができれば合格点ですが、人見知りのネコさんにおかれましては、冷蔵庫の奥に隠れて出てこない、押し入れの中にいるらしいけど、どこにいるのやら、というのは、日常茶飯事。
顔も見ることができない、気配を感じることさえできない、という状況で、動物の気持ちを察しなさいというのは、
『問題を読むことはできませんが、答えを求めなさい」
というような無理難題ですが、これが出来る人は、間違いなくペットシッターに向いています。

保護者さんから写真を撮るように言われたけれど、ネコさんは冷蔵庫の裏にいて出てこない……。
無理に写真を撮るとストレスになるだろうから、ご飯を食べた形跡とトイレの形跡の写真だけ送るようにしよう!
姿は見えないけれど、ご飯も完食しているし、トイレの跡にも気になることはない。見える範囲に嘔吐の跡もないことも、保護者さんに伝えておこう。
というように、姿の見えない動物からでも、その仕草や行動からストレスや体調不良がないかを考えたり、察知したりできる人が求められます。
また、2回目、3回目の訪問になるとペットの方でも少し慣れてくれて、ちょっとずつわがままを言うようになってくれることも。
もちろん、動物たちが「あれヤダ」「これがイイ」なんて話すわけではないのですが、顔つきや目線の動かし方で、なんとなく言いたいことが分かってくるようになってくるんです。
このとき、動物の気持ちを汲んで行動できるかどうかで、その後の動物たちからの信頼度の獲得スピードは格段にかわってきます。

ここをまっすぐ進むといつもの散歩道だけど、今日は足取りが重いし、顔がちがう方向を向いているなぁ。
よし! じゃあ、今日は散歩コースを変えて、行きたい方に行ってみよっか?
なお、動物第一で行動すると、時として保護者さんの要望に沿えないこともありますが、このような場合には、その理由を丁寧に伝えて納得してもらうことも大切です。
責任感が強く、丁寧な対応ができる人
ペットシッターは、保護者さんに代わってペットの命を預かる仕事です。
ルールや約束をしっかり守り、誠実に対応できる人が信頼されます。
動物は赤ん坊と一緒です。自分のちょっとした油断や気の緩みで危険な目にあわせてしまう可能性は十分にあり得ます。
その保護責任と緊張感をつねにもって、慎重に丁寧にひとつひとつのお世話をこなしていくことができるという方がペットシッターには向いているかと思います。
ここで、わたしの経験談をひとつ。
市外からのご依頼で、一泊二日、2頭のイヌさんのお世話を頼まれました。片道15㎞、時間にして1時間ほど(混んでいなければ40分ほど)の距離です。
一日目の夕方のお世話の後、もうすぐ自宅に帰り着くというところで地震が起きました。
震度は3。一瞬、悩みましたが、車をUターンしてふたたびそのイヌさんたちの様子を見に戻りました。家には変わったところはなく、イヌさんたちも「あれ、また来た」というような、落ち着いた様子でした。
写真とともに保護者さんにその旨を伝え、その後地震がないことを祈りながら帰りました。
ご依頼があったわけではありませんから、このとき、Uターンした分の時間もガソリン代も自分持ちです。以上、わたしが責任感からとった行動のお話でした。
プロとしてお引き受けした以上、預かった時と同じか、それよりも元気な状態でお返しする責任が、ペットシッターにはあるのです。
コミュニケーションをとるのが得意な人
ペットシッターといえども、『ペットとだけ信頼関係を築けばいい』ということはもちろんなくて、保護者さんとも信頼関係を構築していくことが大切になっていきます。
ペットシッターの業務報告の方法にはいくつかあります。
わたしは基本的にLINEを使いますが、メールにしろ、SMSにしろ、紙の報告書にしろ、文字でお伝えすることがきわめて多いです。
ちょっと想像してほしいのですが、十分なコミュニケーションが取れていない相手に、文字だけで要件を伝えようとしたとき、
など、悩んだことはありませんか?
ペットシッターのメインの仕事はペットのお世話です。メールの文章にこだわっている時間があるなら、一緒に遊んだり、もう少し念入りに掃除したり、ブラッシングを丁寧にしたり、ペットのために使いたいではないですか。
この点、保護者さんと十分なコミュニケーションが取れていれば、文字の向こうに人が見えます。人が見えれば、文面から伝わるニュアンスはぐっと和らぎます。
お世話の報告だけではなく、万が一のトラブル時にも適切な対応ができるよう、保護者さんとも円滑なコミュニケーションが取れる人はペットシッターに向いていると思います。
体力があり、フットワークが軽い人
ペットシッターの仕事は、移動が多く意外と体力を使います。
散歩やお世話のために動き回る必要があり、また急な依頼やトラブル対応を求められることもあります。
わたしがこれまでに経験したなかで一番歩いた日は、以下のとおり。
単純計算で7時間。これをそれぞれの家を移動しながら行うのです。
なかには走る子もいれば、高齢でえっちらおっちら歩く子もいる。全員(全犬)歩くスピードも違いますし、それぞれの散歩環境ごとに注意すべきところも違う。
正直、全部の仕事が終わった頃にはすり足でしか歩けなくなります。
全部の仕事が終わって家に帰り、やれやれとお風呂に入っていると「帰りの時間が早まりまして、これから鍵を返してもらえますか」という連絡が来て、あわてて自宅を出る、なんてこともありました。

ペットシッターって、じつはけっこうタフな仕事なんです。
ひとりで仕事をするのが苦にならない人
ペットシッターは、基本的にひとりで動く仕事です。
会社員時代、この「単独行動ができる」ということに憧れはありましたが、ひとりで行動するということは楽しいことだけではありません。
先で書いた地震のときのように、とっさに何らかの判断を要されるときに相談する人はいませんし、風邪などで体調を崩したときに代わってくれる同僚もいません。
何があっても責任を取るのは自分以外にいませんし、クレームなどに対しても全部自分ひとりで対応しなければなりません。

わたしは基本的にひとりが好きなので、このあたりのことは全然苦にならないのですが、田舎の方のご依頼で、日没後、街灯のない山中を懐中電灯一本で散歩させなければならないときは、さすがに誰かいてほしいなと思ったことはあります(笑
また、ペットシッターは基本的に「ひとりで」「相手の自宅にうかがって」行う仕事になります。そこで、気をつけてほしいことがひとつ。
世の中善人だけではありません。
わたしも留守だと聞いていた家に『内縁の夫さん』がいらっしゃって、びっくりしたことがあります。(この方は普通にお昼ご飯を食べて、にこやかに「よろしく」と言って去って行かれました。)
相手のテリトリーに乗り込むわけですので、いざというときのことは、しっかり考えておくことが肝心かと思います。

なかに人がいるときは、玄関のかぎを閉めない、とか。
保護者さんに「自宅に〇〇さんがいらっしゃいました」とお伝えするとか、ね。
ちなみに、スケジュールも自分で管理する必要があります。
ダブルブッキングに気をつけることは当然のこと、できるだけ無駄な移動をしなくてすむようなスケジュールの入れ方をするなど、効率的に働ける人が向いています。
ペットシッターに向いていない人の特徴
動物の世話に慣れていない人
動物が好きだという人のなかには、「ただかわいい動物を見るのが好き」という人と、「動物のお世話をすることも含めて好き」という人がいます。
当然のことながら、前者はペットシッターには向いていません。
生き物のお世話ですので、仕事の内容はきれいなことばかりではありません。
排泄物を処理したり、嘔吐物を片づけたり、たまには汚物のついた部分を洗ってあげたりすることもあります。
「イヌと楽しくお散歩してお金がもらえるなんて、ラッキー」
という算段でペットシッターを目指してしまったら、後悔することになるかもしれません。
ただ、
というように、一部の動物に対して抵抗があるということでしたら、自社のホームページやチラシ、名刺などに『イヌネコ専門』とか『対象動物:犬・猫・鳥・魚』など、表記しておくようにすれば良いかと思います。
時間管理や約束を守るのが苦手な人
ペットシッターの仕事の契約方法には、以下のふたつのパターンがあるかと思います。d
- 訪問時間を定めて、時間通りにおうかがいする
- 1日にうかがう回数と時間帯だけを決めて、訪問時間はシッターに任せる
わたしは99%❶の方法で契約をしています。
時間を定めていた方が『その時間になったら、シッターから連絡が来る』というふうに意識づけられるため、メッセージを確認してもらいやすくなりますし、また、保護者さんの方でもいつ連絡が来るかと何度も携帯をチェックする、という煩わしさからも解放されるのではないかと思うからです。
とはいえ、これはシッターと保護者の間の契約ですので、双方が都合がいいのが❷の方法であれば、❷で契約することも何ら問題はないかと思います。
ただ、いずれの方法を取るにしても『約束した時間になっても連絡がない』というのは言語道断です。万が一、時間通りに到着できそうにないことが分かった場合には、かならず、そのタイミングで遅れる旨の連絡を入れなければなりません。
保護者さんは、いつものペットたちの行動パターンを考慮して、シッター訪問の契約時間を決めておられます。
遅刻をするということは、動物たちに何かしらの我慢をさせてしまうことにもなりかねないのです。

人間ですから、遅刻をしてしまうことはあり得ます。しかし、その回数が多いと、スケジュール管理ができないのかなと思われてしまいます。
信用はどれだけ積み上げても、一瞬で失われます。時間や約束は厳守するもの、という意識がない人にはペットシッターは向いていないかと思います。
すぐに高収入を得たい人
ペットシッターは最初から多くの仕事を得られるわけではありません。
地道に信頼を築きながら、リピーターを増やしていく必要があります。
わたし自身、5-6年目頃から25万円前後を安定して稼げるようになっていきましたが、開業から1年間は0円~5万円というような散々たる有様でした。
ただ、わたし自身が仕事をはじめた当時は、なかなか仕事に集中する環境になく、いろいろな作業を中途半端にしか進められない、というような状況でした。
もっと仕事に集中することができる環境にあるならば、もっと早く稼げるようになるかとは思います。なぜなら、ペットシッターの需要は、意外なほどに多いからです。
5年も真面目に仕事をしていれば、リピーター(固定客)が20~25世帯ほど、ついてくれるようになります。それらの方々から月に1、2回の契約をいただければ、単純計算で約25~50件ほどのお仕事が入るわけです。
自分自身に信用が積み上がったら、会社を興して自分以外のペットシッターを雇うという手もあります。そうなるとひとりで頑張っているときとは桁外れの収入を目指すことも可能でしょう。
ペットシッターは信用の上に成り立つお仕事です。信用は一朝一夕に得られるものではありません。
開業したらすぐに高収入を得たい、ということであれば、ほかのお仕事をおすすめします。
急な対応やトラブルに弱い人
生き物を対象とする仕事ですから、急な仕事の変更は本っ当にザラにあります。
ご依頼主の家に行くのに1時間かかるというときなど、家を出たあとにキャンセルの連絡が入ることも。
ペット(または保護者)の体調不良や、急な契約内容の変更など、柔軟な対応が求められる場面が多い仕事です。
ただ、わたし自身はキャンセル自由としているため、このようなことも起こりますが、キャンセルについての取り決めを事前に定めておくことで、回避できる部分はあるかと思います。
どんなことでも決めたとおりに進めたいという人や、臨機応変な対応が苦手だという人には向いていません。
ひとりでの作業が苦手な人
上記でも書いたとおり、ペットシッターは基本的にひとりで働く仕事です。これは長所でもあり、短所でもあります。
上司や同僚がいませんので、誰かと相談しながら仕事を進めることができません。
多頭飼育の家にいっても、誰かと世話を分担することもできません。四方八方から飛び掛かる大型犬をひとりで満足させなければならないのです。
ただ、ひとりでの作業が苦手だけれど、それ以外の適性はあるという方がペットシッターを諦めてしまうのは、ちょっともったいないなと思ってしまいます。
誰かと一緒にいなければ不安、誰かと相談しながら仕事を進めたいという方は、個人開業には向いていないかもしれませんが、適性がないわけではないと思いますので、❶ペットシッター会社に勤める、❷ペットシッターをしたい誰かと一緒に開業される、などの方法を取られるといいかもしれませんね。

固定観念が強すぎる人
というように、固定観念が強すぎる人にもペットシッターは向いていません。
十人十色ならぬ、十犬十色、十猫十色、十鳥十色、です。
物静かなマンチカンもいれば、人見知り気味のゴールデンレトリバーもいます。ボーダーコリーだけど、ちょっと抜けている子だっています。
その子なりの個性を見ようとせず、固定観念に縛られて「ゴールデンだから、人間が好きなはず」と思い込んだ強引なお世話でストレスを与えてしまっているようではペットシッター失格です。
「ゴールデンレトリバーなら、こういう性格の子が多いみたいだけれど、きみはどんな性格?」と、その子の個性を見てあげられるペットシッターになっていただければ嬉しく思います。
動物が好きすぎる人
意外に思われるかもしれませんが、動物が好きすぎる人にもペットシッターは向いていません。
おうかがいする家庭のなかには、『自分の考える理想の飼育環境』とはことなる飼い方をされている方もいらっしゃいます。
もちろん、ペットシッターを頼むくらいですから、愛情がないわけではありません。
保護者さんの飼い方を否定しないように、指導っぽくならないように注意しながら、お願いをするのですが、その程度では聞き流されることもあるわけです。
とはいえ、わたしが首輪やトイレを買ってプレゼントするわけにもいきませんし、「ああ、うちの子だったら、すぐに買ってあげるのに……」とモヤモヤしてしまうこともあります。
お世話に行くご家庭の子は、愛情を注ぐ対象ではありますが、自分のペットではありません。
「プロとして、引くべき一線はしっかりと引く」ことも、良いペットシッターであるために必要な考え方だと思っています。

もちろん、「いますぐに改善しないとペットの命にかかわる」ようなことを発見したら(たとえば、ネコのいる家庭で百合の花を見つけた、など)、すぐに改善するよう伝え「これは危ないので、このように改善しておきますね」と写真付きで報告をするようにしています。
まとめ:向いていない人でも克服できる?
以上の内容を読んでみて、「自分には向いていないのかも」と感じても、改善できるポイントは多々あります。
動物のお世話に少し苦手意識があることに気づいたのであれば、苦手な動物をお世話の対象から外すこともできます。あるいは、その動物に慣れるためにボランティア活動に参加してみる、実際に飼っている人のブログや本を読んで親近感をもつというのも良い挑戦ですね。
時間管理や約束を守るのが苦手であれば、はじめはぎゅうぎゅうに仕事を入れることはせず、時間に余裕をもって行動できるようにしたり、スケジュール管理を一元化して抜けがないようにしたりという工夫を考えてみてください。
すぐに高収入を得たいのであれば、お金持ちを対象とした高級志向のペットシッターを目指してみられるのもいいかもしれません(実際にあります)。もちろん、お金が高い分、普通のサービスだけでは満足されないでしょう。どのようなサービスで差別化を図るのか、そんなことを考えてみるのも面白いかもしれません。
急な対応やトラブルに弱いという自覚があるのであれば、スケジュールは入っても「これは確定ではない」と思うようにするのはどうでしょう。現に、わたしは仕事が終わるまではマスキングテープに記入するだけに留め、仕事が終わってから、はじめて手帳に書き込むようにしています。トラブルは場数を踏む以外に慣れる方法はありませんが、これはどんな仕事も同じです。
ひとりでの作業が苦手であれば、個人開業は一旦横に置いておき、ペットシッターとして働くことができる会社に従業員として勤める方法を考えてみましょう。自分の住んでいる地域に会社がなければ働くことはできませんが、その場合はペットサロンや動物病院など動物とかかわることができるところで働いておけば、いずれ自信がついて「ひとりで開業やってやる‼」となったときに役に立つことでしょう。
固定観念が強すぎる自覚があるのであれば、すぐに改めましょう。自分自身も血液型診断や星座診断をされて「●型ってことは▲▼なんだ~」と言われてイラっとした、なんてことはありませんか?(笑)わたしは何もかも雑でいい加減なので、典型的なB型だと言われますが、ほかの血液型の気質でも該当するものはたくさんあります。
動物が好きすぎる人へ。「動物が好き」に留めましょう。動物が好きなペットシッターは絶対に繫盛します。慈しむ気持ちは外部に伝わりますので、リピーターになってくださる方もたくさん現れるでしょう。しかし「好きすぎる」と飼い方への口出しが増えてしまいます。少しであれば聞いてくださっても、それが命令や指示のように感じられると避けられる要因になってしまいます。
何にせよ、「自分には向いているのか、いないのかを事前に確かめようとする」人は思慮深い人です。
普通は、適性なんてそんなもの調べずにささっと開業するものです。
わざわざ本記事を読んでくださるような方にこそ、ペットシッターになってほしい、とわたしは思います。
最後までお付き合い、ありがとうございました。
それでは、また☻



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